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季節感を感じる術

昨夜は江戸川花火大会があったらしい。

林立するパチンコ屋の空気で澱んだ普段の新小岩駅北口も、浴衣を羽織った女の人のおかげで幾分か華やかにみえた。

ちょうど一年前の江戸川花火、僕が上京してきたその日に(正確にいえば戻ってきた)、うえつき夫妻のお誘いをうけて見に行ったことを思い出した。まだ洗濯機もない下宿先のマンションで、時間を持て余していた僕にとっては非常にありがたいお誘いで、東京の花火の雑踏や、下町の人間特有の雰囲気というのもなにか感じ取れたような気がする。

洗濯物を干しながら、花火へ向かう家族連れやカップルをベランダからぼんやり眺めていると、前の会社を辞めて一年経ったことを思い出した。よく考えれば、実は臆病者で堅実な生活を求める僕が、よくもあんな決断を下せたものだと不思議に思う。

もっとスピード感のある環境で自己成長を遂げたい、日々のルーチンワークの冗漫さに埋没している自分の存在意義、そういったありがちな青臭い鬱屈が、梅雨の湿気で醸成されてしまい爆発しただけなんだろうなぁ。結局は衝動的な決断なのだけれど、それに対する理路整然とした後付けを用意して自分を納得させてるみたいなもんだ。

今も同じく、この会社にずっと居てもよいものなのかと考えてる。今の仕事は性分に会っている。あきっぽい僕からすれば、毎日のように取り組むべき仕事の内容が変わる今の会社は、辛さも感じるけれどやはり前の会社よりは心地よさを感じているんだろう。ただ、やはり長い期間籍を置くべき会社じゃないなぁとも。まだもう数年は働く気ではいる。

新小岩公園で手持ち花火をしようと思い立ったのは前日。突然の無計画な誘いにのってきてくれたのはTさんだけだった。Tさんは浅草の寿司屋で真昼間から酒と寿司を食らってきたという勝ち組っぷりで余裕の参上。線香花火を買って、新小岩公園に向かう。公園に向かう途中の団地から、納涼の祭囃子が聞こえてきた。小学生の頃、夏休みの一大イベントが小学校の校庭で開かれていた盆祭だった。開催場所は毎日通学していた小学校、集まる面々も小学校の友達、よくよく考えればまったくもって非日常なんてことはなかったんだけどな。あんず飴を食べたことがないと言ったらTさんから一笑された。祭当日の限られた小遣いという制約下で、あんず飴は候補に入んなかったもんなぁ。

線香花火。火がついてから、玉になって丸まりながら、パチッパチッと鳴らしながら火花が飛び散る。昔からそうだが、どういう原理でこうなっているかわからない。別にわかろうとも思わないけれど。花火にすらこんな憂いを感じさせる日本の文化がやっぱり好きだ。なにより線香花火という名前が良い。線が香る。昔の日本人の文学センスというのは今からでは到底推してはかれない深淵さがある。火の玉が地面に吸い込まれていく様をみながら、昔はもっと長い間火玉がもっていた気がするんだけどなぁなんて考えてた。安物の線香花火だからそうなのか、やっぱり昔と今とでは時間の捉え方が違ってきているのか。後者だとすると少しもったいないし、切ない。

花火の残骸をかたづけて、余った線香花火を土産に屋台のおやじのとこに向かった。Tさんと話すようになったきっかけはあまり覚えてないけれど、どうやら最初はあまりよい印象をもたれてなかったらしい。僕は基本的に人見知りだ(社会人になっては社交辞令で仮面を被ることは覚えたが)、とはいえ最初の段階で関わりを持たないと結局最後の最後まで話をしない。で、ふとしたタイミングで、最初知り合ってから2年ぐらい経って、あるきっかけで話をしたりするとそこから仲が良くなったりする。たぶんTさんと僕とは根本的には考えが異なるのは間違いないんだけど、すんげー話は聞いてて気持ちいい。

深夜2時頃、家に帰る途中の道で、悪そうな若者が群がって何をしているかと思いきや、男だけで線香花火を見ながら切ないだなんだとつぶやいていた。以前、梅原猛の話を聞いたときに彼は、たとえ世界が物質社会や科学技術社会によって変容していってもそれは表層的なものであり精神社会や文化基盤というものはそれほど大きく変わるものではない、と言っていた。たぶんそうなんだろうなぁと少しほくそ笑んで家に帰った。

もう8月。

花火をすることでようやく気付く。

季節感を感じる術というものを失っている自分がすこし悲しい。

美味しいものを食べにいきたい。

体を動かしたい。

本を読みたい。

音楽を聞きたい。

おしゃれをしたい。

少しはお酒を飲むこと以外のことをしてみっかなぁ。


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